
“はらぺこ経済圏”で
飲食をホワイトに変える
― 見冨右衛門が描く未来図 ―
「飲食店はブラックだという常識を、自分で終わらせる」。静かな口調のなかに、熱がこもる。広告代理店で培った企画力と、10000軒超の食べ歩きで磨いた舌を武器に、見冨右衛門は焼鳥、洋食、和菓子などジャンルを横断して店を成功させてきた。だが彼の視線は“店”よりも“産業”に向いている。「好きな飲食店が消えていくのを、黙って見ていられないのです」。業界の根深い課題を解く鍵は、飲食ビジネスそのものを再定義することにあるという。

“唯一無二”かつ“サステナブル”な食体験
「はらぺこ社が掲げるミッションは“模倣でなく、ここにしかない、持続可能な食体験を提供する”ことです。素材選定から空間演出まで妥協なく作り込む一方で、働く人のウェルビーイングも追求する。たとえ料理やサービスが素晴らしくても、裏がブラックでは、真の価値に辿り着けないのが現代です」。低賃金・パワハラ体質が放置されれば未来の料理人志望者がさらに減り、日本の豊かな食文化そのものが衰退するという危機感も原動力になっている。
評価指針は“プロ・チャレンジャー・ギバー”
「私たちの行動指針は“プロフェッショナルであること”“チャレンジャーであること”“ギバーであること”の三本柱」。特にユニークなのは、ギバーの精神。「仲間に機会を与え、助け合う人を高く評価するようにしています」。この思想を実現するために360度評価を導入し、部下が上司を採点できる仕組みを整えた。実際、旧来のパワハラ的マネジメントは生まれず、社員同士の雰囲気は外から見ても和やかだ。
“はらぺこ経済圏”の発想
飲食産業の利益構造は、席数×単価×回転率。しかし席を増やせば人手が、回転を上げれば労働がブラック化する。見冨右衛門はこの方程式を“はらぺこ経済圏”で丸ごと組み替えることに挑戦している。
“はらぺこ経済圏“一例と構想
- ドリンク ――
独自のワイン仕入れルートで原価を圧縮。 - 器 ――
ギャラリー事業をはじめることで作家と直接取引し、低価格の仕入れを実現。 - 食材 ――
鹿児島の生産者と組み、オリジナル鶏肉を開発。 - 人材 ――
将来的には料理学校を買収し、よりよい教育と、職場を斡旋。
「周りの店もホワイトになるような影響力を高める。業界全体が変わると信じています」。周辺領域を自前化し、利益と知見を社内外に還元することで、厨房と客席に集中できる環境を整えている。
会員制レストランが示す“はらぺこ経済圏”モデル
経済圏の象徴となる店が、西麻布にある。4つの個室とダイニングキッチンを設計し、全国の一流料理人たちがプロデュースした料理と、選び抜かれたワインを提供。肩肘張らずに最高を味わうという、これまでにない価値を提示する。
アートの存在も欠かせない。国内外のキュレーターが手がける作品たちが、食事体験に寄り添うように配置されている。空間全体が、ギャラリーとしても機能する構想だという。
収益モデルは月額制を軸に設計され、高級飲食店の常識だった「回転率」や「単価」といった指標を大前提から問い直し、収益と余白、文化と経済の接続点を再定義しようとしている。
飲食・不動産・アートが交差する、新たなフレーム。はらぺこ経済圏が描く“次の一手”が楽しみになる。

ホワイト化への具体策
飲食では、ありえないほどホワイト…!と社員たちは笑う。同社は法定残業を超えないシフトを徹底しています。「全員で成績を上げる文化が育つようにしています。嫉妬でプラスは生まれませんから」。さらに店舗横断の応援シフトに係数を掛け、人を“貸す”ほど自店の評価も高まる仕組みを設計中だ。
ロールモデルと美学
見冨右衛門が敬愛するのは、小山薫堂氏や前澤友作氏ら“文化とビジネスをスマートに横断するプレーヤー”である。「文化的文脈の中で利益を生み、社会に還元することにこそ価値を感じています」。10000件以上の食べ歩きレビューを毎日1時間以上かけて綴るのも、食文化を記録し共有する“ギブ”の一環だ。
“はらぺこ”への招待状
「僕が作った美味しい料理を、できるだけ多く、長く、“はらぺこ”さんたちへ届ける。そのために業界構造ごとアップデートしてゆくのです」。取材を終えて感じたのは、見冨右衛門のビジョンが理想論で終わらないロジックと実行力にあふれていること。すこし話をするだけでも、きっとその挑戦心にわくわくするはず。ホワイトな職場環境と、唯一無二の食体験が交差する場所で、新しいキャリアの第一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。おいしいもの好きのすべての人へ、”はらぺこ“の扉は開かれている。